ストーブ爆発事件
ブログ生活120日目
12月に入り、暖房をつけるのが日常化してくるようになってきたある日、ふと中学校の時のある冬のストーブ爆発事件を思い出した。
あと一歩で学校が大火事になるところだった火元を、私のいたクラスから出てしまったたという事件だ。
私が通っていた中学校のストーブは「ポット式ストーブ」と呼ばれているものだった。
壁に煙突を貫通させて、ストーブには天盤があり、生徒が近づかないように柵で囲われている灯油式のストーブだ。
何とも古臭く昭和感に溢れたストーブだったが背に腹は代えられない。
これがまた何ともめちゃくちゃ暖かく、登校時や休憩時間はみんながストーブを囲んで手やお尻を温めていた。
そんなある日、昨日まで調子の良かったストーブが朝から具合が悪い。
あまり暖まらないし、ときどき咳をするかのように「ボスッ、ブスッ・・・」と詰まっているように音を出すのである。
「なんか今日はストーブの調子悪いねぇ」
ストーブの目の前に座っていた子なんて「大丈夫かなぁ」と心配そうにしていた。
担任の先生が教室に入ってきた時「先生ストーブがなんか変だよ」と訴えたのだが、そういう時に限ってストーブは具合悪そうにしてくれず普通に稼働している。
先生は一通りストーブを確認してくれたのだがとくに何もなかったので「またおかしくなったら先生に言いなさい」とだけ言い、いつも通り授業が始まった。
お弁当までの4時間目まで、やっぱり時々「ボスッ、ブスッ・・・」という咳をしていたのだが、別段それ以上に何か起こるわけでもなし、部屋もいつの間にか暖まって来ていたので、だんだんみんな「ボスッ、ブスッ・・・」に気にも留めなくなっていた。
お昼休憩でお弁当を食べている頃には、みんなストーブのことなどすっかり忘れていつも通り過ごしていた。
それから5時間目の美術の時間。
美術のK藤先生が教室に入ってきて、授業を始めてしばらく経った頃、突然ストーブが大爆発をした。
本当に一瞬の出来事だった。
まるで山が噴火するように、突然煙突から炎がガスバーナーのように勢いよく噴射し、ストーブの天盤がシャンパンのコルクのように天井に高く吹き飛んだ。
ものの数秒で私たちの教室は黒煙に包まれ、生徒たちはパニックを起こし「きゃー!」とか「わー!」とか叫びながらすぐさま教室を飛び出した。
3年生の教室は幸いにも1階だったため、窓側の生徒はみんな窓から校庭に飛び出し、私を始め廊下側の生徒はすぐに扉を開けて廊下に飛び出した。
すると唯一の大人であるK藤先生は何を思ったか、すぐに教室を飛び出して隣の美術室に走って行った。
私達は先生が非常ベルを押すか、職員室に応援を呼びに行くものだと思っていたので、美術室に駆け込んだ先生をみて唖然としていた。
「せ、先生なにしに行ったんだろ・・・」
突然の恐怖で声が震える中、私達は先生の戻ってくるのを待ってるしかできなかった。
教室はもう黒煙で充満している。
「あ、きっと消火器取に行ったんだよ!」
「あ!そうか!」
そんな期待をしつつ先生を待っていると、先生はこともあろうに扇風機を抱えて教室に戻ってきた。
廊下に出ているみんなは目が点になった。
「え・・・?」
「ん?扇風機・・・?」
なぜ?なにそれ?どうして?分からない・・・という気持ちが渦巻いていて、ただ茫然と突っ立って先生の行動を見ているしかできなかった。
すると先生は黒煙の広がる教室に入り、扇風機のコンセントをさし、扇風機を両手に抱えながらその煙に向けて風を送り始めたのだ。
・・・全員絶句した。
校庭側に逃げた生徒も外からその様子を見て呆然としていた。
「え・・・?先生なにしてるの?」
やっとの思いで声を出した子がいたが、その場にいた生徒たち全員が同じ思いだったのは言うまでもないだろう。
「俺、職員室に他の先生呼びに行ってくる!」
ハッと我に帰った学級員の男の子がすぐに職員室に向かった。
すぐさま学級員の男の子と先生が3人ほど駆けつけてくれ、真っ黒になっている教室に驚きの声を上げていた。
「おいやばいぞ!」
「生徒を非難させろ!」
「非常ベルを鳴らせ!」
しかしその中で扇風機を抱えて黒煙に風を送り続けているK藤先生を発見し、先生たちの動きが止まった。
「・・・K藤先生は何をしているんだ・・・?」
体育教師が眉をひそめてつぶやいた。
私達も説明のしようがなく、「ストーブが爆発したとたん美術室から扇風機持ってきてずっとああしているんです・・・」というほかなかった。
・・・・・・・・
「・・・K・・・K藤先生!後は私たちがやりますから教室から出てください!」
ハッと我にかえった体育の先生がそう叫んだ。
K藤先生の顔はもう黒煙によるススで真っ黒になっている。
『わ・・・笑っちゃダメ・・・絶対笑っちゃだめだ・・・』
扇風機を抱えながら「我は一人で戦ったなり!」というような「ドヤ顔」で他の先生に「黒煙はほとんど私が追い出しましたから!」と誇らしげに訴えていた。
「・・・わ、分かりました・・・K藤先生下がっててください・・・」
顔のひきつる体育教師に言われて、K藤先生は戦いを終えた戦士のように誇らしげになって美術室に扇風機を置きに戻っていった。
『K藤・・・ほかの先生に追い出されてる・・・顔真っ黒で・・・』
その場にいた生徒全員が笑いをこらえるのに必死だった。
何人かは顔を背けて肩を震わせていたし、私は必死に唇をかんで耐えていた。
結局火は最初の噴火以来出ておらず大事には至らなかったため、消防署も呼ばれずに済んだ。
放課後は真っ黒になった教室の掃除でクラス全員居残りとなった。
K藤先生が扇風機で黒煙をまき散らしてくれたおかげで天井や高い壁のあちこちにまでススが飛散し、みんな「K藤め・・・」とぶつぶつ言いながらせっせと雑巾がけしていった。
それにしてもK藤先生はなぜあのような行動をとったのかいまだに疑問である。
先生もパニックだったのだろうか。
冬になり暖房器具を見るといつも思い出してしまう話です。
本日も読んでいただきありがとうございました!