三日月レモンのちょこっとエッセイ

絵や絵本を描いて暮らしています。日々の思い、感じたこと、体験したこと、過去のこと、そんな何気ないことを書き綴っていきます。

少年になった17歳の夏

ブログ生活55日目

 

今日は私と演劇についての話を少し書こうと思います。

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演劇をやりたいと思ったきっかけは小学校の国語の授業でやった朗読だった。

私はよく近所のおばちゃんたちに「レモンちゃんは本当によく通る声ねぇ」とか「ハキハキ大きな声でいいわね」と声がでかいことをよく指摘されていた。

 そんなお得意の大きい声でハキハキと読むのを先生に褒められたものだから、単純な私は朗読が好きになり家でも毎日国語の教科書を朗読していた。

 それから高学年になり、クラブ活動ができるようになると私は「演劇部に入りたい」と思うようになった。

しかし私の行っていた小学校に演劇クラブはなく、仕方がないので中学生になったら演劇部に入ろう!と決意した。

 しかし残念なことに中学にも演劇部はなかった。

結局私は友達とできたばかりの硬式テニス部に入り、3年間テニスに明け暮れた日を過ごした。

そして高校こそは演劇部に入ろう!と最後のチャンスにかけていた。

 しかしいざ高校に入学してみると、演劇部はもう活動していなくて、ほこりのかぶった部室だけが存在すると先生に言われて、小学生の頃から抱いていた密かな夢はこの時消え去るのを感じた。

結局、もうテニスをする気もなかったので、私は友達と一緒にこれまたできたばかりの吹奏楽部に入部した。

同じ学年の子がたった6人だけの小さな小さな吹奏楽部だった。

 そのうちに、趣味で楽器を始めた学年の先生達が吹奏楽部にマイ楽器を持って来るようになり、顧問と副顧問の先生たちを入れて大人4人と生徒6人の何だか趣味のサークルみたいな部活になっていた。

けどいつもは教卓に立っている先生達が、慣れない楽器を扱う姿や、一生懸命練習する姿は見ていて新鮮で楽しかった。

 吹奏楽部も楽しかったけど、やはり私はどうしてもお芝居がしてみたかった。

そして3年の夏休み前、もう今しかないと思い仲の良かった美術の先生に「演劇部を作りたい」と相談しに行った。

 すると先生は部活の作り方教えてくれ、これならできそうだと思った私は自分が部長となって演劇部を作った。

同級生に声をかけると15名ほど集まってくれ、顧問には美術の先生がなってくれた。

結局何日か足らずであっさり演劇部が出来上がってしまい、こんなことならさっさと作ればよかった…と後悔したのを覚えている。

そして新しくできた演劇部の第一回目のミーティングで、文化祭でお芝居をしようということになった。

 

ワクワクが止まらなかった。

演劇経験者が一人もいなかったので、夏休み中毎日のように学校に来て発声練習や稽古に励んだ。

何もかもが楽しかった。

発声練習も、台本の読み合わせも、衣装や小道具作りも、証明や音響づくりも、毎日寝るのが惜しいくらいだった。

こんなに夢中で、まるで一瞬に、けれど濃密な夏休みを過ごしたのはこの17歳の夏を除いて他にはない。

 

演目は劇団キャラメルボックスの戯曲「ハックルベリーにさよならを」。

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主人公は母親と二人暮らしの男の子ケンジ。

家庭教師に教わったボートにあこがれと夢を抱く少年。

しかしある日父親に女の人(カオルさん)を紹介され、大人になったケンジ(自分)と今の自分の気持ちで葛藤する日々の話を書いた作品。

 

 「父さんはカオルさんと幸せになって、母さんはボクの心配だけして年を取ってく。そんなの不公平だよ。カオルさんなんか、いなくなればいいんだ!」

 

このセリフを舞台の上で叫んだのを今も鮮明に覚えている。

結局私が演劇をしたのはこれが最初で最後となった。

 

何年か前に知り合いから京都にある劇団を紹介されたのだが、「むちゃくちゃ厳しいよ」と聞かされて断ったことがある。

中学校のテニス部も、高校の吹奏楽部も、そして演劇部も、楽しみながら自分たちのペースでやってきた部活ばっかりだったので、今更先輩後輩の関係や厳しい練習は嫌だな思ったからだ。

 

でも今でも演劇への憧れはなくならない。

またいつか楽しみながらお芝居ができたらなという密かな夢を持っている。

 

演劇はいい。

お芝居はいい。

何にだってなれるし、自分以外の人生を生きられる。

普段言えないようなセリフも、体験できないようなことも舞台の上ならできる。

いつもは何者にもなれない自分が、何者かになれる。

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「ケンジくんに悲しい思いをさせてまで、お父さんを取り上げたくない。だから、さよならね」ケンジには、何も言えなかった。

それから10年。

ケンジは今でも、あの時の自分自身が許せない。

 10年間押し続けたカオルさんの部屋の電話番号。

何千回も願った祈りが、ついに時の流れをさかのぼった。

「もしもし」
10年前のカオルさんの声が受話器ごしに飛び込んでくる。
ケンジはカオルさんに「ごめんなさい」と言った。
「謝ることないのよ。私は私でちゃんと幸せになってみせるから、大丈夫。だから、許してあげてね。あなた自身を」

そして、ゆっくりと時計が動き始めた。

 

ー台本引用「ハックルベリーにさよならを」作・成井豊