三日月レモンのちょこっとエッセイ

絵や絵本を描いて暮らしています。日々の思い、感じたこと、体験したこと、過去のこと、そんな何気ないことを書き綴っていきます。

本当にいた魔法使いの先生

ブログ生活86日目

 

中学生の時の理科の先生が魔法使いだった。

見事なまでの白髪、丸いレンズの眼鏡、年の割には動きは若者のように快活だったし、ひざ丈まである白衣はいつも風になびいていて、魔法使いのマントのようだった。

ある日の授業でそれを決定づける出来事が起こった。

「起立ー!礼!」

と日直が号令をかけていつものように授業が始まるのかと思いきや、先生は窓のほうに近づいて空を眺め出した。

私達生徒はみんな頭に「?」を付けている感じで先生を見ていると、先生は突然「先生はね…雲を消せるんだよ」と空を眺めたまま話し出した。

「え?」「何?」といった戸惑いやどよめきでクラスがざわついた。

「昔はこの教室くらいの大きな雲を一瞬で消したことがあるんだ」

と言いながら先生は教卓に戻ってみんなに向き直った。

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「えー?先生本当?!」

とお調子者の男子が嘘だと分かっているような調子で言った。

私達は中学2年生。

もう大抵のことは自分でできるし、自分で考えられる年頃だが、何といってもまだまだ小学校と中学校の世界しか知らない14歳。

まだ夢と現実、理想と本音、嘘と誠の確かな判断もできないでいる中途半端なお年頃なのだ。

私はこの先生は前々から普通と違っていると思っていたので、雲を消したことがあると聞いても疑いもせずに聞き入っていた。

「先生、雲を消せるんだ!やっぱり魔法使いなんだ!」と胸がドキドキしたのを今でも覚えている。

先生はお調子者の男子の質問に顔色一つ変えずにこう答えた。

「本当だよ。けれどこの技は体を大変に酷使するんだ。実際、昔大きな雲を消したときは、僕は入院してしまったんだ。だからめったにやれない。他にも全教室の時計を一度に逆回転させたこともあるよ。」

「へー!先生すげぇ!」と感心する子、「まさか~」と笑っている子、反応は様々だった。

先生は眼鏡の奥からみんなをニヤリと見つめて、それからいつものように理科の授業が始まって、その話はそこまでになってしまった。

 

私は結局雲を消せる話が気になって授業は上の空だった。

「魔法ってあるんだ!本当にあるんだ!」とひとり興奮し、なんとしてでも先生に雲を消す方法を教えてもらいたかった。

授業が終わり、教科書をしまっていると、1年生のころから仲の良かったMちゃんがトントンと私の背中を叩いてきた。

「レモンちゃん!さっきの先生の話!」

「うん!やっぱり先生は魔法使いだったね!」

…というのもこのMちゃんだけはいつも気が合って、私がどんなに空想の話やファンタジーなことを語っても、笑いもしなければ馬鹿にもしない友達だった。

それどころか、彼女も不思議なことが大好きで、2人でいつも理科の先生は絶対魔法使いだよねと言いあっていた。

私とMちゃんはその日の放課後、先生を訪ねて職員室に向かった。

「失礼しまーす」と職員室に入り、先生のところへ行き、「先生、雲を消す方法を私たちにも教えてください」と真剣に訴えた。

 

今考えると…純粋なのかもしれないがなんてマヌケな質問だろう…と少し恥ずかしくなる。

仮にもMちゃんは私と違って、学年でもいつも10位以内には入る秀才なのだ。

けれど私たちは真剣だった。

そして先生もまた笑いもせずに、真剣に、「んー・・・」と少し気難しい表情で考えて、「さっきも言ったけど、あまりやりすぎると危険なんだ」と言った。

「呪文を他の誰にも教えないって言う約束と、1日1回まで、それも本当に小さな小さな雲のみにだけ使うっていう約束ができるなら、君たちにだけ教えてあげるよ」

「はい!約束します!」

と私達は元気に答えて、先生にその呪文の言葉をこっそりと教えてもらった。

 

呪文の言葉を修得した私達は、放課後に学校の窓から雲を消す練習に一生懸命になっていた。

練習のかいあって、私もMちゃんも小さい雲は簡単に消せるようになった。

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それから時が流れて、大人になって、その原理が分かってしまったのだが、あの呪文とは別と考えたい、という自分がいることに気が付き、その思考自体がもう子供の頃の純粋な気持ちではないことを悟ってしまった。

 

でもあの呪文は私もMちゃんも誰にも教えていない。

確かに小さい雲なら私の知ってしまったカラクリで説明もつくが、先生が言っていた教室ほどの雲を一瞬で消せたというのはどうしたって説明ができない。

とすれば、先生は本当に魔法使いだったかもしれない。

その思いだけがいまだに私の心に残り続けている。

もしかしたらそれは先生が大人になった私たちに残してくれた「魔法」だったのかもしれない。

私が中学生の時、本当にあったお話です。

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