三日月レモンのちょこっとエッセイ

絵や絵本を描いて暮らしています。日々の思い、感じたこと、体験したこと、過去のこと、そんな何気ないことを書き綴っていきます。

いつも1人でいたK君。

ブログ生活119日目

 

学生時代、クラスに1人はおとなしいタイプの子がいるものである。

誰の記憶にもそう言われて思い浮かぶ子が何人かいるのではないだろうか?

私が中学生だった頃、3年間クラスが一緒だったK君もそんなタイプの子だった。

しかしK君の大人しさは群を抜いていた。

3年間もクラスが一緒だったのに彼の声を授業の発言以外で聞いたことがないし、彼が他の誰かと話しているのを見たことがない。

おそらく友達はいなかったし、いつも一人で教室の決まった位置から窓の外ばかり見て過ごしていた。

あまりにもその定位置から動かないので(言い方はとっても失礼だけれど…)もはや銅像と化していて、誰も気に留めるものもいなかった。

たまにクラスの気さくな男子が「K君のお弁当豪華だねー!」とか声をかけると、顔を真っ赤にしながらちょっとうつむいて口をもごもごさせていた。

 とにかくおとなしさに拍車をかけたような子で、全く話さないのでどんな性格かもわからなかったし、何が好きかとか、情報のかけらさえないような子だった。

けれどいつも毎日遅刻も欠席もせずに学校に来て、いつもおかずのいっぱい詰まった豪華なお弁当を一人で食べて、休み時間は決まった位置から窓の外を眺めて、授業が終わればスッと帰る。

これがK君の3年間一度も変わらなかったルーティーンだった。

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ところが何年生かの夏休みに、私は初めてK君の意外な一面を見た。

それは私が友達3人で近所の夏まつりに行った時のことである。

河川敷でやっている町内の小さなお祭りなのだが、小中学生は心待ちにしているような催しだった。

友達のお母さんに浴衣を着せてもらい、3人でお祭りを楽しんでいると、その群衆の中にK君がいた。

K君は5つほど歳の離れた弟を連れてお祭りに来ているようだった。

「あ、K君だ!」と友達が言うので私は「弟さんかな」と言い、「弟がいたんだね」などと軽い会話をし、それきり私たちはK君のことは忘れてお祭りを楽しんでいた。

ひとしきり遊んだあと、もうそろそろ帰ろうかとなった時、かき氷屋さんが「もうすぐ終わりだからかき氷1杯100円でいいよー!」と呼び込みをする声が聞こえた。

「かき氷100円だって!最後に食べていこうよ!」

私達はすぐにかき氷屋に走り、急に殺到した列にならんだ。

すると1人前にK君兄弟が並んでいて、弟のほうが「兄ちゃんかき氷食べたい」と訴えていた。

するとK君は、おそらくお母さんから借りてきたんであろう花柄の小さながま口を開けて中をのぞき込むと、「兄ちゃんはいいからお前が食べな」と言い、おじさんに「1つ下さい」と注文していた。

おそらくもらったお小遣いがかき氷一杯分しかなかったのだろう。

「はいよ」とおじさんがかき氷を出してくれるとK君はそれを弟にあげて、「ここは邪魔になるからあっちで食べような」と公園の隅のほうに移動していった。

一部始終を見てた私たちはあまりに胸がジーンとして、誰もすぐに声を出すことができなかった。

それから私達もかき氷を買い、公園の隅で食べながら「K君っていいお兄ちゃんだね…」とそれだけをつぶやいてそれ以外は誰も何も言わず、だまってかき氷を食べ続けた。

 

それから卒業するまでK君はやっぱり学校では何も話さず、誰とも友達にはなってなかったけれど、今はきっと素敵な人と結婚して幸せになっているといいなぁなんて勝手に考えてたりする。

素敵なK君の一面を見たたった数秒の出来事。

けれど私は君を覚えている。

弟想いで、優しい、K君。

湧き水のようにきれいで、降り積もったばかりの雪のように純粋な子の話でした。

本日も読んでいただきありがとうございました!

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