「みのるころ」
ブログ生活58日目
「みのるころ」 作・三日月レモン
赤やオレンジや黄色に色づいた季節。
茶色のカサカサした葉っぱは、踏むと”クシャ”とか”パリパリ”ってなって気持ちいい。
クシャ、パリパリ!クシャパリ!カシュ!サクサク!
けどたまに湿っていてつまんないのもある。
「あ!あそこにもある!」
真っ赤なランドセルが縦にゆさゆさ。
ちいちゃんは小学2年生。
まだ少しランドセルのほうが大きいね。
「あ!みのむし!」
パリッとしたふみ心地のよさそうな葉っぱの近くに衣をまとったみのむしが一つコロリ。
「あ!いいこと思いついた!」
ちいちゃんはみのむしをさっと取り上げ、かけあしで家に帰ります。
「ただいまー!」
ランドセルを玄関にほおり投げ、台所に大急ぎ。
「おかあさーん!箱ちょうだい」
台所ではお母さんが夕ご飯の準備。
トントントン、ジュージュージュー、ぐつぐつぐつ。
「箱?なんに使いますの?」
「みのむしを飼うんだよ、早くちょうだいよ」
お母さんは目の前にあったカレーのルーの箱をちいちゃんに渡しました。
…ちいちゃんは悲しくなりました。
全然思い描いていたものと違ったからです。
これではあんまり狭すぎてみのむしがかわいそうだからです。
「こんなのいやだよ、もっと大きいのちょうだいよ」
お母さんは足元にあったティッシュの空き箱をちいちゃんに渡しました。
…ちいちゃんはまた少し悲しくなりました。
箱は大きくなったけど、表にティッシュと書いてあるのがみすぼらしく見えたし、ティッシュの家は頑丈とは言えません。
ちいちゃんは折り紙をしきつめて、立派な家にしてあげたかったのです。
「こんなのいやだよ、もっとりっぱなのがいいんだよ」
「一体どんなのがいいんですの?」
お母さんはやれやれという感じで、ようやく火を止めて、前掛けで手をふきながら押し入れのある部屋に行きました。
そしてお母さんが出してきてくれた箱は今までとは比べ物にならないほど立派でした。
その箱はお父さんのゴルフのトロフィーが入っていた箱で、頑丈な上に、中はツルンツルンのきれいな赤い布が敷き詰められていて、おまけに宝箱のように小さなカギまでついています。
これだったらみのむし界の中では一番の豪邸にしてあげられます。
「こういうのがよかったんだ」とちいちゃんは満足そうにちょっと鼻を膨らますと、箱を両手でしっかり抱きしめて二階の部屋に走っていきました。
ちいちゃんがそっと握っていたみのむしは温かくなっていました。
ちいちゃんは机のはしっこにひとまずみのむしを置いて、引き出しからおりがみの束をとりだしました。
そしてそれをびりびりと細かくちぎって立派な箱に敷き詰めて行きました。
いろんな色のきれいなベッドが出来上がると、ちいちゃんはみのむしがこれまで着ていた古い衣をとってあげて、新しい家に入れてあげました。
冬が来る前には、カラフルな服を着た、豪邸に住む、みのむしの王様になっているでしょう。
「ちいちゃーん、ごはんですよー」
下からお母さんの声が聞こえます。
ちいちゃんがハっと気が付くと、外はいつの間にか真っ赤な夕焼け空でした。
豆腐屋さんの笛の音、空高く舞う赤とんぼ、風に揺れるススキ、何度も「バイバーイ」と言いあう子供の声が聞こえます。
ちいちゃんは王様の家に鍵をかけて、「はーーい」と大きな返事をして階段を降りていきました。
玄関には放ったままのランドセル。
ちいちゃんは台所のほうをちょっと見てから、ランドセルを持ってそおっと階段を上がっていきました。
おしまい
★あとがき★
このお話は18歳ころに書いたもので、これまた原文はどこかに行ってしまいました。
突然死んだ時に作品を誰かに見られたらどうしよう!という思いから処分してしまったからです。
けど脳みそってすごいもので、一言一句は覚えてないけれど、題名や内容はちゃんと保存されているのです。
「ああ、こんな話かいたな」と思いながら、最近また改めて書いています。
どうして一度捨てたのにそんなことをするのかと言えば、自分がいいと思って作った作品、この話は面白いと思って書いていたものは年月が経って思いだしてもやっぱり私には好きな話なのです。
別に誰に見せなくてもいいのでしょうが、自分が作ったものを残しておきたい…
と、そんな風に思ったからです。
誰に見られずとも、今後データーが消えてなくなってもいいのです。
今、書いた。
そこに私の満足があります。
この「みのるころ」は小さいころの実話です。
今は虫が大の苦手なのですが、昔はみのむしでも、バッタでも、とんぼでもよくつかまえていました。
ポケットをダンゴムシでいっぱいにして、いつもみぞやマンホールや土を棒でほじくりかえして遊んでいました。
なぜかそんなたわいもない日常のことがやけに鮮明に思いだされるのです。
こどもの頃のくだらない、けど当時は夢中だったことってきっと誰しもあると思います。
大人になったらそういう些細な出来事はただの道端の石ころくらいの存在にしか思えなくても、子供の時って何もかもが宝石のように感じられます。
いろんな発見、知りたいって言う気持ち、これなんだろ?どうしてだろ?で毎日が満たされています。
そんな頃の日々を大事にしたい…忘れたくない…しまっておきたい…
という気持ちから生まれた作品です。
今日も読んでいただきありがとうございました。