三日月レモンのちょこっとエッセイ

絵や絵本を描いて暮らしています。日々の思い、感じたこと、体験したこと、過去のこと、そんな何気ないことを書き綴っていきます。

優しい悪魔

ブログ生活52日目

 

『優しい悪魔』 作・三日月レモン

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悪魔のガブガブは悪魔として生まれたけど悪魔としての要素は何一つ持ち合わせていなかった。

生まれてすぐに母親は死に、ガブガブはこれまで一人で生きてきた。

アズウェルの森の奥深くにある誰にも知られていない小さな洞窟がガブガブの住処で、ここが彼の全世界だった。

ガブガブは外の世界に行ってみたかった。

時々迷い込んできたコウモリの話を聞くのがガブガブの唯一の楽しみで、それはもう3年前のことだが外の世界の話を聞いたことがあった。

 

木々の生い茂る森のこと、差し込む太陽の光が温かいこと、いろんな生き物、いろんな動物が暮らしていて、すべてはバランス関係で成り立っているってこと。

けど僕みたいにへんてこな気味の悪いやつは初めて見たから、きっとそのバランス関係の仲間には入っていないってこと。

ガブガブはそれから少しの間悲しくなっていたけど、コウモリさんだってすべてを知っているわけじゃないんだ、もしかしたら森を抜けてずっとずっとその先の果てには僕の仲間がいるかもしれない。

 

ガブガブはちょっと元気を取り戻して、日ごとにこのままここにいてはダメだと思うようになってきた。

けれども外へ行く勇気がなかなか出ないで、毎日出てみようか、やめようか、やっぱり出てみなきゃ、いやまた明日、とやっているうちに3年の月日が流れていった。

 

そしてある日いよいよガブガブはその一歩を踏み出す決意をした。

洞窟の出口に向かって歩き出し、とうとうその光の点を見つけると胸に小さな明かりがともったような気持ちになった。

はやる気持ちと、ちょっと怖いような複雑な心境で、一歩一歩と光に向かって歩き始めた。

目がだんだん光に慣れてきて、コウモリさんの言っていた木がたくさん見えてきた。

「これが木かぁ!大きいなぁ、立派だなぁ」

とうとう入り口までやってきたガブガブはしばらくそこで立ち尽くしていた。

 

風が頬に触れてくる。

きれいな音がたくさん聞こえる。

木が風の流れに乗ってゆらゆら揺れている。

太陽の光が筋になって降り注いでいる。

とっても静かで、とっても心地よくて、ガブガブは生まれて初めて幸せだと思った。

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 その時、何かが足元に触れた。

ガブガブは静かに、ほとんど動かずにそっと下を見ると、1匹のシマリスがガブガブの足元のドングリを拾っていた。

その尻尾の毛が、ふわっ、ふわっと何度もガブガブの足元に触れるのだ。

 

ガブガブは生まれて初めて誰かと触れ合える喜びを全身で感じた。

それはとてもあたたかい気持ちになって、のどがしめつけられて苦しくなるほどこみ上げてくる喜びでいっぱいだった。

 

シマリスはドングリを抱えて行ってしまうと、ガブガブはもっといろいろなものを見たい!いろいろな物と触れ合いたい!という気持ちになった。

そしてこれまで抱えていた恐怖や不安は一気に吹き飛び、ガブガブは洞窟から飛び出して走り出した。

「わぁ!風も僕と一緒にかけっこしているぞ!」

ぐんぐん走る、まるで風になったみたいに、太陽もずっとついてくる、このまま走ってお友達を見つけよう!仲間を見つけよう!

 

その時バーーーーーン!!!!!

けたたましい音が静寂な森にこだました。

「やっぱりいたべ!あの母親のこどもだ」

「隠れていると思っただよ」

 

黒い筒・・・二本足で歩く生き物・・・

薄れゆく意識の中でガブガブは自分に向かってやってくる生き物を見た。

 

「なーんて醜いんだ」

「でもこれで悪魔族はもういねぇはずだ。やっと安心できるだな」

「ん?なんだべ?こいつ。涙なんか流してら」

 

ガブガブはもう何も見えなくなった。

空の青も、太陽の光も、木もシマリスももう見えない。

ああ、そうか、僕は眠っているんだ。

目が覚めたらきっとまた走ってみよう。

ずっとずっと走って、たくさんお友達作って、仲間にも会うんだ。

きっとキラキラして、嬉しくて、楽しいだろうな。

それまでちょっと眠るんだ。

目が覚めたら・・・きっと・・・きっと・・・

 

 

(あとがき)

この話は私が高校生のころに書いたお話で、原文をなくしてしまったので思いだしながら今回新たに描いてみました。

ガブガブもちょっと前に描いたものですが、私の好きな子の一人です。

確か原文では人間に撃たれて「なんだべ?こいつ涙なんか流してら」で終わりだったのですが、今思い返しながら書いているとそれはあまりにもかわいそうすぎて、文をつけたしました。

また気が向いたら学生のころに書いたお話を書きたいともいます。

読んでいただきありがとうございました。